パワハラだけじゃない!セクハラ・マタハラ・パタハラの関連性と対処法
職場で生じやすいトラブルといえば、パワハラやセクハラといった“ハラスメント”を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
ハラスメントへの意識が徐々に高まりつつある現代、以前まではあいまいにされてきたハラスメントの定義が定められ、企業側には対策への取り組みが義務化されてきています。
しかし、実際にハラスメント被害に直面するケースの多くは、机上の定義付けだけでは解決できないような複雑な問題を抱えています。
その代表例が、「パワハラ×セクハラ・マタハラ」がからみ合って生じるハラスメントトラブル。
複数のハラスメントが重なり合いながら押し寄せる被害も多く、
そこに相談すればいいの?
どうしたらいいのか分からない
泣き寝入りするしかない……
このような悩みを抱え込んだまま、誰にも相談できずに苦しんでしまうケースは非常に多いです。
本記事では、そんな「パワハラ×セクハラ・マタハラ(パタハラ)」に焦点を当て、原因や対処法について解説していきます。
現在ハラスメントに悩んでいる方や、ハラスメント対策で頭を悩まさえている企業関係者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
パワハラ×セクハラ・マタハラで悩む人が多数!
ハラスメントが複雑にからみ合うトラブルに向き合う前に、まずは代表的なハラスメントの定義を確認していきましょう。
今回ご紹介するのは以下の4種類。
パワハラ(パワーハラスメント)
セクハラ(セクシャルハラスメント)
マタハラ(マタニティ―ハラスメント)
パタハラ(パタニティーハラスメント)
それぞれについて、詳しくご紹介していきます。
パワハラの定義
パワハラとはパワーハラスメントの略であり、以下のように定義されています。
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、「精神的・身体的苦痛を与える」または「職場環境を悪化させる行為」をいう。
上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。
出典:職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ 2012年
つまり、権力や立場を行使して、他人を攻撃・抑圧するような行為に当たります。個人間でのトラブルはもちろん、複数人で1人を追い詰めるような「社内いじめ」も、パワハラに含まれると考えていいでしょう。
パワハラはさらに詳しく、以下の6類型に分類することができます。
身体的な攻撃・・・殴る、蹴る、丸めたポスターで叩く
精神的な攻撃・・・みんなの前で強く叱責する、長時間にわたって執拗に叱る
人間関係からの切り離し・・・別室に隔離される、職場のイベントに呼ばない
過大な要求・・・明らかに無理な残業を押し付ける、厳しすぎるノルマを課す
過小な要求・・・職務と関係ない単純作業しか仕事を与えない、本来の業務から切り離す
個の侵害・・・交際相手や家族の悪口を言われる、プライバシーに必要以上に踏み込む
上記はあくまで一例ですが、「パワハラ=暴力・暴言」だけではない、という点には注意する必要があります。
セクハラの定義
セクハラとはセクシャルハラスメントの略であり、性的な側面でのハラスメント全般を指します。
厚生労働省が発行している「職場におけるハラスメントマニュアル」によると、
職場において行われる、労働者の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること
と定義づけられています。セクハラは大きく以下の2種類に大別できます。
対価型セクシャルハラスメント・・・性的な要求を拒否されたことで、解雇・配置転換などの不利益を被った
環境型セクシャルハラスメント・・・定期的に胸を触られたりいやらしい誘いを受けたことで、就業意欲が低下してしまった
上記の一例のように、「セクハラ=性的な言動」という訳ではなく、性的な言動が引き金となって生じるさまざまなトラブルが含まれていることを理解しておきましょう。
マタハラ(パタハラ)の定義
マタハラとはマタニティ―ハラスメントの略であり、妊娠や出産を機に生じるトラブルを指します。
職場において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」等の就業環境が害されること
出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントマニュアル」
と書かれている通り、妊娠や出産に関する妬みや嫌味、育児休業を阻害するような発言などはマタハラに当たります。
また、近年徐々に浸透してきた男性の育児休業取得に関するトラブルは「パタハラ(パタニティーハラスメント)」と呼ばれており、もはや女性だけのトラブルではなくなってきています。
マタハラ・パタハラは大きく以下の2つに分類できます。代表的な例をみてみると、
制度等の利用への嫌がらせ型・・・育児休業を取得後、不本意な配置転換を強要された
状態への嫌がらせ型・・・妊娠を報告した途端、解雇を示唆された
解雇や配置転換などの目立ったハラスメントはないものの、嫌味ともとれるような発言をくり返され、精神的な苦痛を感じるケースも非常に多いのが現状です。
ハラスメントは複雑にからみ合って襲ってくる
上記でご紹介した定義や被害例をみてみても、それぞれのハラスメントの境界線がいかにあいまいであるか、感じ取れたのではないでしょうか?
どこからどこまでがパワハラで、どんな発言はセクハラだなどと、明確に分けられないのがハラスメントの厄介なポイントです。
また、セクハラからパワハラに発展するケースや、セクハラとパワハラをくり返されるような被害も……。複雑にからみ合いながら襲い掛かってくるのがハラスメントであり、証拠が実態として証明されにくいのも特徴です。
セクハラ&パワハラ被害に苦しむ3つのワケ
職場で「セクハラ&パワハラ」の被害を受けてしまった場合、多くの被害者が想像以上の苦痛を感じるケースが多いです。
その原因は主に以下の3点。
立場上、セクハラ上司にむやみに反発できない
「自分の言葉は信じてもらえない」という恐怖
セクハラを公にすることに抵抗を感じやすい
それぞれの理由に関して、掘り下げていきましょう。
1.立場上、セクハラ上司にむやみに反発できない
「セクハラ×パワハラ」被害では、そのほとんどが上司から部下へのベクトルで発生します。つまり、立場が上の人間が権力をチラつかせながら、立場の弱い人間へのハラスメント行為に及んでいるのです。
こういった人間関係では、上司からのセクハラに対してはっきりと「NO!」といえない状況が生まれやすく、被害者が孤立してしまうことに……。
また、はじめは「セクハラっぽいな」「ちょっと嫌だな」と感じる程度の行為からはじまり、徐々にエスカレートしていくケースも目立ちます。
「最初は我慢できたけど、もう限界だ!」と感じたときには、すでに声を上げにくい精神状態まで追い込まれてしまうことも……。
2.「自分の言葉は信じてもらえない」という恐怖
会社内の人間関係は、立場や肩書きに左右されやすいですよね。
上司からセクハラやパワハラ行為を受けている場合、部下である被害者は
どうせ、自分の言葉なんて信じてもらえない
上司に「セクハラなんてしていない」「被害妄想だ」と言われたらどうしよう……
反対に、自分が会社に行きにくくなるかもしれない
このような不安を感じてしまうことが多いです。結果として、ハラスメント被害を誰にも相談できないまま1人で抱え込んでしまうことに……。
3.セクハラを公にすることに抵抗を感じやすい
セクハラは“性”に関するハラスメントであり、非常に繊細な問題。パワハラと比べて声を上げにくいのが特徴です。
また、些細な言動に対しての感じ方にも大きく個人差があります。上司の下ネタに笑って対処できる人もいれば、わずかなボディタッチでも不快に思う人もいます。
そんな繊細でデリケートなトラブルだからこそ、声を大にして「セクハラを受けている」とは言いにくいもの。
どうしても個人間で解決しようとしがちであり、
なかなか解決まで至らない
状況が悪化してしまう
セクハラからパワハラに移行してしまう
このような二次的被害が生じやすくなります。
セクハラ&パワハラ被害を受けた時の対処法
では、実際に自分がセクハラやパワハラの被害にあってしまったらどうすればいいのか?
被害者になってしまったときの対処法をチェックしていきましょう。
なるべく上司と距離をとる
まず大前提として、セクハラ上司とは必要以上に距離を詰めすぎないようにしましょう。
業務上、どうしても接点を持たなければならない場面もあるとは思いますが、なるべく上司とは距離を取ることが大切です。
また、信頼できる同僚がいる場合は、2人きりにならないよう協力してもらうのもあり。いくらセクハラ上司と言えども、人目につくところでは言動がセーブされやすくなります。
ラインやメールなどの個人的な連絡も含め、密な接触は最小限にとどめるよう注意しましょう。
証拠となる記録を必ず残しておく
ハラスメント問題は、目に見える証拠が残りにくいという問題があります。
もし今後、専門機関や相談窓口に連絡することになった場合、証拠となるものがあるかないかでは大違い。証拠がそろっているほど、自分の訴えの信ぴょう性を高めることができ、その後の対処を有利に進めることができます。
個人的に届いたラインやメール、着信履歴などを残しておく
会話の内容を録音しておく
日記をつけておく
性的な内容を含んだメールなどは、つい削除したくなってしまいがち。ですが、非常に重要な証拠になります。
ハラスメント被害にあってしまったら、どんな些細なことでも記録として残すことを心がけましょう。
専門窓口や専門機関へ相談する
セクハラやパワハラは個人間で解決しようとしてしまいがちですが、本人同士では有効な解決に至らないケースも多いです。
また、悩みやストレスをひとりで抱え込んでしまい、精神的にも肉体的にも大きなダメージを受ける可能性も……。
限界ギリギリまで我慢するのではなく、なるべく早い段階で専門の相談機関へ相談してみましょう。相談窓口を利用したこと自体が、ハラスメント被害にあっていた証拠にもなります。
専門機関であれば、セクハラやパワハラ行為への専門的な対応が期待できます。不安に感じがちな相談者のプライバシー管理も問題なし。
自分の今後の立場を保証してもらえるケースも多いため、1人で解決しようとせず、思い切って相談してみましょう。
部署変更・異動などを依頼する
部署変更や異動の希望が出せる場合は、人事の担当者へ相談するのも有効です。接点が減ればストレスを軽減できますし、ハラスメント行為の手が及ばなくなる可能性もあります。
上司のプライドを傷つけることによるハラスメント行為の悪化、という問題も生じにくいため、安全に環境を変えられるチャンス。
相手を行動や考え方を変えるのは難しいですよね。だからこそ、思い切って自分の置かれている環境を変えてみるのもおすすめです。
転職する
部署変更や異動が難しい
たとえ異動しても、セクハラ上司から逃げられない
会社に行くことそのものがストレスだ
このような方は、思い切って転職を検討してみましょう。転職や退職は、決して“逃げ”ではありません。
自分の身を守るために必要な選択肢であり、前を向けるチャンスでもあります。
セクハラ上司の顔色をうかがう必要のないストレスフリーな職場環境なら、自分の能力を100%発揮することができますよね!
ひと昔前のような、終身雇用や年功序列といった考え方はもう古く、自分に合った環境を求めての転職は当然の選択肢になりつつあります。
「自分がガマンすればいい」とは考えず、自分が伸び伸びと働ける職場を探してみましょう。
職場のマタハラで苦しむ本当の理由3つ
セクハラトラブルと同じくらい、職場で生じるハラスメント問題の中でも厄介なのが、「マタハラ&パワハラ」被害を受けてしまった場合です。
なぜマタハラは被害者を苦しめるのか、その原因は主に以下の3点。
自分のからだをコントロールできない
お腹の赤ちゃんに影響が出る可能性も
待機児童・保育園問題で辞めたくても辞められない
それぞれの理由を詳しくみていきましょう。
1.自分のからだをコントロールできない
妊娠してから出産に至るまでの期間、女性のからだの中は目まぐるしく変化していきます。
ホルモンバランスが大きく乱れる
血流量が変化し、貧血や血圧変化などのトラブルが生じやすい
“つわり”を始め、不快な症状が次々に襲い掛かることも
上記の諸症状をはじめ、妊娠期間中は自分のからだを自分の意思だけではコントロールできません。自分の意に反して、周囲の助けが必要になる可能性は誰にでもあります。
このような状況に一番苦しんでいるのは、妊婦本人。
しかし、職場でマタハラ被害にあってしまうと「これ以上、迷惑はかけられない」と考えてしまいがち。“妊婦=負担・迷惑をかける”という空気が職場内にあるほど、自分から助けを求められなくなってしまうのです。
2.お腹の赤ちゃんに影響が出る可能性も
妊娠中は、母親の行動すべてが赤ちゃんに直結します。食べ物はもちろん、強いストレスを感じれば赤ちゃんに悪影響が出てしまう可能性も。
「妊婦がいると迷惑だ」
「妊婦のせいで周囲の人の仕事量が増える」
「育児休業は、堂々と仕事をサボれてうらやましい」
このようなマタハラ発言に対し、負けないように頑張りたい!と感じる女性は多いです。しかし、そこで無理をしてしまえばお腹の赤ちゃんに負担がかかってしまう……。
そんな葛藤を抱えてながら、結局は自分がガマンせざるを得なくなってしまう、というケースも多いのです。
3.待機児童・保育園問題で辞めたくても辞められない
妊娠・出産後も働き続けたい女性ほど、驚くほど早い時期から『保活』問題に向き合わなければなりませんよね。妊娠がわかった段階から、すでに保育園を検討し始める方も多いでしょう。
そんな時期にマタハラ被害にあったとしても、手続きの都合上どうしても職場を辞められない、というケースも目立ちます。
もし退職してしまうと、
保育園の認定が受けられない
出産や育児に関する手当が受け取れなくなる
復職が難しくなってしまう
このような多くのデメリットに直面することになります。それが分かっているから、マタハラ行為を訴えることなく、泣き寝入りしてしまう女性が後を絶ちません。
子どもを一番に考えるからこそ、自分の不満を飲み込まざるを得ない状況に追いやられてしまうのです。
マタハラ被害にあった時の対処法
では、実際に自分がマタハラ被害にあってしまったらどうすればいいのか?
被害者になってしまったときの対処法をチェックしていきましょう。
なるべくストレスをため込まない
まず第一に考えなければならないのは『赤ちゃん』の健康です。そして、妊娠中の赤ちゃんの健康は、ママである妊婦が健康に過ごすことで守られます。
ストレスは健康の大敵。周囲からの圧力や嫌がらせ、不快な言動などを感じると、どうしてもストレスを感じてしまいますよね。
そんなストレスをなるべくため込まないよう、自分なりの発散方法や対処法を見つけておきましょう。
証拠を残しておく
セクハラやパワハラと同様に、ハラスメント対策の基本は「証拠を残す」こと。
妊娠中にマタハラ被害を訴えることが難しくとも、証拠が残っていれば、後から被害を受けた事実を証明することもできます。
不快なマタハラ発言を録音しておく
「妊娠中にもかかわらず重いものを持たされた」などを記録に残しておく
育児休業による不当な人事などは、録音・辞令の保管を徹底する
証拠は正確かつ具体的であるほど有効です。日記などに記録を残す際は、日時や指示された内容などをなるべく詳細に書き留めておきましょう。
また、不当人事があった場合はむやみに受け入れず、専門の相談機関から指示を仰ぐことをおすすめします。
マタハラ専門の相談機関を利用する
ハラスメント被害は一人で抱え込まず、誰かに助けを求めることが大切です。一人で悩んでいても、事態が好転することはありません。
特にマタハラ被害の場合、エスカレートしてしまうとお腹の赤ちゃんやその後の生活に支障をきたす可能性もあります。
1人で悩まず、専門の相談機関を利用してみましょう。
ハラスメント全般の相談窓口はもちろん、女性のトラブル(セクハラ・マタハラ)を専門に扱う窓口もありますので、気になる方は以下のサイトを併せてチェックしてみてください。
参考:厚生労働省委託 母子健康管理サイト「女性にやさしい職場づくりナビ」
「母性健康管理指導事項連絡カード」を活用する
「母性健康管理指導事項連絡カード」をご存知でしょうか?まだそれほど広くは浸透しておらず、初めて耳にする女性も多いでしょう。
「母性健康管理指導事項連絡カード」の趣旨は以下の通りです。
「母性健康管理指導事項連絡カード」(以下、「母健連絡カード」とします。)は、仕事を持つ妊産婦の方が医師等から通勤緩和や休憩などの指導を受けた場合、その指導内容が事業主の方に的確に伝えられるようにするために利用するものです。
出典:厚生労働省委託 母子健康管理サイト「女性にやさしい職場づくりナビ」
つまり、主治医から妊婦の健康維持に関する指導があった場合、その内容を職場へ正しく伝えられるようにするためのもの。
妊娠中の女性が自分の口で伝えにくい内容も、この連絡カードを活用することで、スムーズにやり取りができます。
女性労働者からこの「母健連絡カード」が提出された場合、事業主の方は「母健連絡カード」の記載内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。
出典:厚生労働省委託 母子健康管理サイト「女性にやさしい職場づくりナビ」
とも明記されており、マタハラ被害を予防する手段としても有効です。
自分から「休憩させてほしい」「通勤時間をずらしてほしい」と言いにくい女性は、主治医に連絡カードについて相談してみましょう。
まとめ:パワハラと重なり合うハラスメントに注意!
今回は、パワハラ・セクハラ・マタハラ(パタハラ)について解説してきました。
ハラスメントはどれか1つではなく、複雑にからみ合い、エスカレートしながら被害者を追い詰めていきます。
だからこそ、それぞれのハラスメント問題の闇や特徴について理解し、適切な対処法を知っておくことが重要です。
現在進行形でハラスメント被害に悩んでいる
ハラスメントに関する悩み相談を受けた
企業として、ハラスメント対策に取り組みたい
状況はさまざまだとしても、上記に当てはまる方は本記事で解説した内容を参考にしてみてください。
あなたの職場にハラスメントがなく、すべての労働者にとって働きやすい環境が作られることを願っています。